いつからか随分遠くを眺めてた。
キミのことはもう忘れたはずなのに…
僕は遠くを眺めていると、たびたび思う。
キミは僕を呼んでいるんじゃないか?
一度しか会ったことのないキミにもう一度会いたい。
そう思っていた僕に風がささやく。
「キミを探せ」
僕はキミを探すためにバイクのエンジンをかけた。
キャップをかぶり、宛のない旅へ出発。
頬に伝う風の感触。
風を伝う草の香り。
草を伝う花の景色。
花の景色に誘われて、僕は一つの森にたどり着く。
木々が立ち並ぶ不思議な感じのする森。
僕は一度バイクから降り、歩いてみることにした。
木々に囲まれて薄暗いが、僕はそんな雰囲気が好きだった。
薄暗くも明るいような空間。
ただ、歩いても歩いても同じ道を歩いているような感じである。
迷う前に僕はバイクのある場所まで戻ろうとした。
振り返ると、自分よりも一回り大きく、2つの足で立っている白い猫(だと思われる者)が立っていた。
僕は一礼をして横を通りぬけようとした。
だがしかし、猫は私の隣を歩いてくる。
「何か僕に用ですか」
その問いを無視するかのように隣を歩いてくる猫。
どこまで歩いていても猫は私の隣を歩いてくる。
僕が歩調を速めても、遅くしても、猫は私のペースに合わせて隣を歩いてくる。
そのことに対していら立ちは無いが、僕は歩くのを止めて猫を見た。
すると猫も動きを止めて僕を見た。
「どうして僕についてくるの?」
猫はやはり、何も言わない。
僕はもう一度、同じことを聞いてみたが、やはり無反応である。
僕はふぅっとため息をつき、もう一度歩み始めた。
するとやっぱり猫も一緒に歩み続けるのだ。
来た道を戻ってきたつもりが自分のバイクが見当たらない。
どうやら迷ったらしい。
少し疲れていた僕は木にもたれかかるように座った。
猫も隣の木にもたれかかるように座った。
僕は立ち上がったり座ったりを繰り返して猫をからかってみた。
猫は特に怒る様子もなく、ただ僕の真似をしているだけだった。
何か面白くない。
僕は深く、木に座り込んだ。
勿論猫も。
僕は空を見上げた。
猫も空を見上げた。
木々のつける葉からこぼれる木漏れ日のシャワーを浴び、横からは涼しい風が僕を伝う。
迷っていることや、キミを探すことを忘れて、目を閉じて、僕は眠ってしまった。
夢の中で僕はキミに出会う夢を見た。
森を抜けて、猫と共に空中に浮かぶ図書館を見つけた。
図書館は円柱の真ん中のあたりをくりぬいた形をしていた。
自分の立っている地面からどれぐらい離れているのだろうか。
図書館は何にも支えられていないのに空中に浮いているのだ。
僕は図書館の真ん中にたっている棒を伝い上へ上へと登っていった。
猫は宙に舞いながら僕についてきた。
下を見ると、随分と登ってきたことがわかる。
でも、何故ここを登っているのだろうか。
棒を使って登れるのはいいものの、肝心な本に手が届かないのだ。
それなのに僕はどんどん登り続ける。
本棚が僕の周りを囲む空中の図書館で風の通り道がないはず。
それなのに風が僕の髪をなびかせた。
風とともに聞こえる、少女の声。
「どの本をお探しですか。」
私は声のするほうを向くとそこには少女が宙を舞っていた。
彼女は僕に笑顔を見せた。
その彼女は、間違えなくキミだった。
「キミを探していました。」
キミは照れくさそうに笑った。
そのまま上の方に登っていった。
そして一冊の朱色の本を持ってきて、僕に持たせた。
「それが、私。」
そういうとキミは何処かに消えてしまった。
目を覚ますと僕は手元に朱色の本を持っていた。
僕はその本を開けてみた。
最初のページにキミと僕が写っている写真を見つけた。
その写真には見覚えのない風景がセピアに写っている。
途中のページは全て白紙であった。
最後のページには、真ん中に小さく、文字が記されていた。
風の果てへ
そこにキミはいるのだろうか。
こんなに近くに、キミと僕が写っている写真があるのに、何故か遠い気がする。
なんとなく胸にしみた。
もう一度、もう一度キミの元へ行きたい。
そう思った。
この気持ちをキミに伝えたい。
僕の頬を伝う風に、僕の気持ちを乗せて君に届かないだろうか。
この気持ちが風に乗ったのなら、僕も一緒に連れて、遥か彼方まで連れて行ってほしい。
朱色の本は空白のページばかりだ。
僕は隣で寝ている猫の体を揺さぶって起こした。
猫は慌てて起き上がった。
「君も行くだろう?僕と一緒に。」
猫は黙ってうなずいた。
初めて、僕に対して反応してくれた。
僕は写真に写っている場所に行くことにした。
そこがどこだかわからないけれど、キミは待っていてくれていると思う。
少し時間はかかるかもしれないけど、待っていてほしい。
風に願えば、きっと僕にもいけると思う。
僕の思いを風に乗せれば、風も僕に応えてくれると思う。
僕を、連れて行ってください。
君の元へ。
風の果てまで。
〜終わり〜