オレのコインは普通のコイン
だけどオレから見れば普通じゃないんだよね。
オレはその昔彼女がいた。
信じられないかもしれないけどね。
あの時だけはかなりの運命を感じたよ。
なにとなく投げたコインが始まりだった。
あの時のオレは不幸続きの人生だったよ。
その投げたコインがちょっとミスして落としてしまってね。
それが彼女との出会いのきっかけだった。
「落としましたよ。」
綺麗な女性だった。同じ年頃かな。
金髪の髪に真昼の太陽が反射してまるで黄金を見たみたいだった。
「あ、ありがとう。」
「表、ですよ。」
「はい?」
女性はクスクスと笑いながらごめんなさいと言った。
「表が出たものだから。」
あぁ、とオレは言う。
というよりそう言うしかなかった。
こういう状況ってなんていえばいいのかな?
オレ、女性と話したことなんてあまりないしね。
考えている間に向こうから話してきた。
「コインって不思議ですよね。」
「え?」
「コインって不思議な感じがします。
だってこうやってあなたと会えたじゃないですか。
落としたコインで他人と話す機会ができるなんて
素敵だと思いませんか?」
「あ、はぁ…」
どういえばいいのかな?
どういえばわからないけど向こうから話かけるから会話が弾んだよ。
彼女と付き合いはじめてもう長い。
付き合いといってもただいつもの公園で会うだけ。
そのたびオレはコイントスをする。
不思議に表だと彼女が現れ、裏だと彼女は来ない。
「彼女はコインの女神様なのかもね。」
オレは自分の言ったジョークに思わず笑った。
まさか本当のことだとしらずに…
いつものようにコイントス。
「やった、表だ。」
彼女に会える。
笑顔いっぱいの彼女に会える。
幸せ一杯の彼女に会える。
彼女はすぐにやってきた。
しかしいつもの笑顔いっぱいの彼女じゃない。
いつもの幸せ一杯の彼女じゃない。
「どうしたんだい?そんな顔して。」
オレは心配になってたずねてしまった。
すると彼女は突然泣き出した。
「ゴメンなさい。」
「え?」
「もう、会えないのよ…」
「え?何で?どうしてさ?」
「実は、私はコインの女神…信じてくれないでしょうけど。
本当はコインから抜け出してはいけない存在なのに、抜け出してしまった。
あなたのコイントスには表ばかりなのに不幸の続くあなたを見かねて出てしまった。」
いつものオレなら大きなお世話だ、と言ってやる。
だけど今そんなことは言えるはずがない。
「でももうあなたに会うことはないわ…さよなら……」
彼女は薄くなっていく。
「ま、まってよ!」
「ねぇ、あなた名前は?」
とっさにオレは叫んでしまった。
「ジム、ジム・チャップマンだよ!」
「ジム、あなたに幸せになってほしい。もし、嫌なことがあったらコイントスをしてみて。
わたしは現れないけど、あなたに祝福を与えます。」
そういうと彼女は消えていった。
彼女と別れた夜、オレは嫌気がさして気晴らしにいつも通っているJ’sバーに向かった。
バーに行く途中コイントスをした。
-----裏だ-----
「ケッ!なんだよ!!」
オレは不機嫌そうにドアを開けた。
そしてすぐにいつもの席に座った。
注文したものを待っている時はいつものようにクロスワードパズルをやる。
「あ、ここはこうだな。」
そんな時窓になにかがぶつかってきた。
窓を見てオレは夢を見ていると思えた。
または何かのホラー映画を最前列で見ているような気がしたよ。
「うわ!なんだよこれ!?」
ゾンビが窓を叩いている。
そしてあっさりドアが破られてしまい、1、2匹のゾンビが進入してきた。
「どうしてこう不幸が続くのかなぁ…」
みんなこのコインが悪い。
このコインがなければこんなに悲しまずに済み、こんなことにはならなかった。
このコインでさっき裏だしたからかよ?
このコインがオレの運命を変えたのかよ?
だったらいらないよ、こんなコイン。不幸のコインめ!
警官のケビンと警備員のマークが応戦してくれている。
どうしよう、どうしよう。オレに何ができる?何をすればいい?
ヨーコがトイレから出てきて状況を他の客に尋ねている。
「ね、ねえみんな、どうなっているの?トイレから手が…」
ヨーコの声は震えていた。
「それがさっぱり…」
いつもの明るいシンディではない。
「とにかくマークとケビンが時間を稼いでいる間に逃げる方法を探さないといけないな。」
ジョージは落ち着いて話す。
「町中がこんな風になってるのか…?」
冷静な感情を絶やさないデビット。
「とにかく落ち着いてよ。あまりうるさいといい案が浮かばないわ!」
アリッサはイライラしながら叫ぶ。
みんな頑張っているのに、オレだけ現実逃避してどうなる。
「もし、嫌なことがあったらコイントスをしてみて。」
やってやろうじゃないか。
このコインで奴らを消してやる!
「運を味方に!!」
やった、表だ、これでもう安心だよ!
……………
そんなばかなことあるはずがない。
そんな時1匹のゾンビがケビンを攻撃し、態勢を崩したところでもう1匹がオレの方に向かってくる。
「く、来るなぁ!!!」
オレは思わず床に落ちていたハンドガン(おそらくボブのだろう)を撃った。
するとゾンビは一撃で倒れて、そのまま動かなくなった。
-----これがコインの力…?-----
もう1匹はマークが倒してくれたみたいだ。
「ちょっとみんな。さっさとおさらばするわよ。」
アリッサは慌てて叫ぶ。
「でも入り口から出るのは自殺行為だぜ?」
ケビンは落ち着いて返答する。
「シンディ、入り口以外通路はあるかい?」
ジョージも落ち着いて逃げ道を尋ねている。
「上へならそこのドアから…」
シンディは向こうにあるドアを指でさす。
「そこに行くしかないな…」
デビットは腰に付けている用具入れ(だと思われる)からナイフを取り出す。
「早くしないとまた来るわ……」
ヨーコは慌ててみんなに話す。
「そうだな、シンディ、鍵をあけてくれ。」
マークはそう言うと入り口に目をやる。
とにかく危険なことには変わりない。
もし、このコインで表を出して祝福が与えられるなら…
人生最大の賭けだね。
オレは再びコインを出してコイントスをした。
「ピーンっとね。」
「ねぇシンディ、わたしたち助かるのかしら…?」
ヨーコが心配そうにシンディに尋ねている。
「そうね…わたしにもさっぱり……」
手を震わせながら鍵をドアに差し込む。
「ちょっと!あんたたち!あとがつかえてるのよ!早くしてよ!!」
アリッサは後ろにいるゾンビに目をやりながら急がせる。
「やだ、これロッカーの鍵じゃない!」
「ちょっと!!なにやってるのよ!!!」
この状況じゃ慌てるのも無理はない。
「おい、弾切れで応戦できない!!ジム、撃て!!」
「わ、わかったよ!!」
4,5匹はいたゾンビを全て1発で倒した。
「ジム…お前、銃の才能あるな。」
ケビンに誉められたなんて認識できなかった。
自分でも信じられない。
落ち着いて考えよう。
もしかしてオレ、無敵?
これならバケモノも怖くない?
よし、やってやろうじゃないか。
やっとシンディがドアを開けてくれた。
人ごみを駆け抜けて初めにオレが出た。
「なにトロトロしてんだよ!バケモノに食われるぞ!
シンディ、ヨーコ、オレ様が守ってやるぜ!!
みんな、こっち、こっち!」
みんなポカン、と口をあける。
こんな世界信じられない。
信じられないけど先に進まなきゃ。
オレのコインは不幸のコインじゃない。
けれども幸運のコインじゃない。
運命のコインなんだ!